訴因変更の要否の問題

このblogで、何度も取り上げている訴因変更の要否の問題について、再び考えてみたいと思います。

一般的な論証は、訴因制度の趣旨を踏まえた上で、具体的防御説を批判し、抽象的防御説を採用、するというものです。

しかし、最高裁の立場は、次の判例に現れています。
最決平成13年4月11日刑集55・3・127判時1748・175LEX/DB28065112
「次に,実行行為者につき第1審判決が訴因変更手続を経ずに訴因と異なる認定をしたことに違法はないかについて検討する。訴因と認定事実とを対比すると,前記のとおり,犯行の態様と結果に実質的な差異がない上,共謀をした共犯者の範囲にも変わりはなく,そのうちのだれが実行行為者であるかという点が異なるのみである。そもそも,殺人罪の共同正犯の訴因としては,その実行行為者がだれであるかが明示されていないからといって,それだけで直ちに訴因の記載として罪となるべき事実の特定に欠けるものとはいえないと考えられるから,訴因において実行行為者が明示された場合にそれと異なる認定をするとしても,審判対象の画定という見地からは,訴因変更が必要となるとはいえないものと解される。とはいえ,実行行為者がだれであるかは,一般的に,被告人の防御にとって重要な事項であるから,当該訴因の成否について争いがある場合等においては,争点の明確化などのため,検察官において実行行為者を明示するのが望ましいということができ,検察官が訴因においてその実行行為者の明示をした以上,判決においてそれと実質的に異なる認定をするには,原則として,訴因変更手続を要するものと解するのが相当である。しかしながら,実行行為者の明示は,前記のとおり訴因の記載として不可欠な事項ではないから,少なくとも,被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし,被告人に不意打ちを与えるものではないと認められ,かつ,判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえない場合には,例外的に,訴因変更手続を経ることなく訴因と異なる実行行為者を認定することも違法ではないものと解すべきである」

この決定について、大阪大学の水谷規男教授が平成13年決定について、次のようなコメントを最近されました。
「もっとも、この決定(平成13年決定)が登場したからといって、判例が訴因変更の要否について、抽象的防御説自体を排した、と見るのは間違いだと思います。罪となるべき事実の認定のために必要な事項については、具体的防御説ではなく、抽象的防御の不利益を考慮する姿勢があると考えられるからです(カッコ内省略)。つまり、この決定の射程は、罪となるべき事実の明示の観点から必ずしも必要でないディテールを検察官か゛訴因に記載しても、それと異なる事実を認定することが被告人にとって具体的な不利益をもたらさない限り、訴因変更は不要だといっているに過ぎず、訴因変更の要否の一般に及ぶものではない、ということです」(水谷規男「疑問解消刑事訴訟法12 訴因変更」法学セミナー624号98頁)。

平成13年決定をもって、抽象的防御説の考え方を全て排した、と考えるのは確かに妥当ではありません。その点の指摘はその通りだと思います。

しかし、水谷教授の説明には、次のような疑問があります。
それは、そもそも最高裁判所は、学説の言うような抽象的防御説を採用していたのか、ということです。
これに対しては、旧来から疑問が呈されてきたところです。
現に、抽象的防御説では説明ができない判例も存在しています。

そもそも、抽象的防御説と具体的防御説を対立概念でとらえること自体が、妥当ではないように思われます。
なぜなら、平成13年決定を素直に読めば、

訴因の特定に必要な事実の変更→常に訴因変更必要(抽象的防御の考え方)
訴因の特定に不要ではあるが、検察官が訴因に記載した事実の変更→審理の経過を考慮して、具体的な防御の不利益がないかで要否を判断(具体的防御の考え方)

というように、抽象的防御の観点と、具体的防御の観点は登場局面が異なっているわけで、両者を対立概念として考えること自体に疑問を感じます。

平成13年決定は、これまで明示されなかった判例の考え方を、具体的に明示したところにその意義があると考えられます。その意味で平成13年決定は、「今後の指針となる明確な基準を示した判例」(後掲・井上103頁)と理解するのが適切であり、水谷教授のように射程を狭く解するのは、判例の理解として疑問です。

参考文献
井上弘通「訴因の変更と要否-共同正犯の実行行為者」刑事訴訟法判例百選[第8版]102-103頁
大澤裕「訴因の機能と訴因変更の要否」法学教室256号28頁以下
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by meronpanss | 2006-11-11 15:42
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