自動車一斉検問の法的根拠?

今日は交通の取り締まりを目的とした自動車一斉検問の法的根拠について、考えてみたいと思います。

この問題についての最高裁判例は、次のように言います。
最決S55・9・22刑集34・5・272LEX/DB27682295(刑事訴訟法判例百選8版・5事件)
「職権によつて本件自動車検問の適否について判断する。警察法二条一項が「交通の取締」を警察の責務として定めていることに照らすと、交通の安全及び交通秩序の維持などに必要な警察の諸活動は、強制力を伴わない任意手段による限り、一般的に許容されるべきものであるが、それが国民の権利、自由の干渉にわたるおそれのある事項にかかわる場合には、任意手段によるからといつて無制限に許されるべきものでないことも同条二項及び警察官職務執行法一条などの趣旨にかんがみ明らかである。しかしながら、自動車の運転者は、公道において自動車を利用することを許されていることに伴う当然の負担として、合理的に必要な限度で行われる交通の取締に協力すべきものであること、その他現時における交通違反、交通事故の状況などをも考慮すると、警察官が、交通取締の一環として交通違反の多発する地域等の適当な場所において、交通違反の予防、検挙のための自動車検問を実施し、同所を通過する自動車に対して走行の外観上の不審な点の有無にかかわりなく短時分の停止を求めて、運転者などに対し必要な事項についての質問などをすることは、それが相手方の任意の協力を求める形で行われ、自動車の利用者の自由を不当に制約することにならない方法、態様で行われる限り、適法なものと解すべきである」

学生の間で比較的使われている教科書は、次のように説明をしています。
「最決昭55・9・22刑集34-5-272は、『警察法2条1項が、「交通の取締」を警察の責務として定めていること』を検問の根拠法条としてあげる。しかし、組織法たる警察法から具体的な『検問』権限まで導きうるのかについて疑問が残る」(白取祐司『刑事訴訟法[第3版]』(日本評論社・2004年)100頁)
→判例は自動車一斉検問の根拠を、警察法2条に求めていると説明した上で、それを批判する論調です。このような理解をしている人が多いでしょう。

ところが、このような理解には、次のような疑問が当然に生じることでしょう。
「おおかたの論者は、この冒頭説示部分(前掲昭和55年決定が、「警察法2条1項が、『交通の取締』を警察の責務として定めていること」の部分-Gak補足)について、自動車検問の根拠に関するいわゆる『警察法2条説』を採用したともの論評しているが、ほかならぬ最高裁判所が、組織規範と根拠規範という行政法学の基本的区別を知らぬとは考え難い。そのような理解(自動車一斉検問の根拠を警察法2条に求めたという理解-Gak補足)は疑問であろう」(酒巻匡「行政警察活動と捜査(2)」法学教室286号57頁)

では、最高裁判所は自動車一斉検問の法的根拠についてどのように考えているのでしょうか。

それについては、次の説明が参考になります。
「この判例(昭和55年決定)の結論部分は次のようにいう。
 『警察官が、交通取締の一環として交通違反の多発する地域等の適当な場所において、交通違反の予防、検挙のための自動車検問を実施し、同所を通過する自動車に対して走行の外観上の不審な点の有無にかかわりなく短時分の停止を求めて、運転者などに対し必要な事項についての質問などをすることは、それが相手方の任意の協力を求める形で行われ、自動車の利用者の自由を不当に制約することにならない方法、態様で行われる限り、適法なものと解すべきである』
 前期のとおり、筆者の考えに依れば、ここに示された方法、態様での検問については、侵害留保原則との関係で特別の法律の根拠規定は不要である。逆に、停止させるための運転者への働きかけや質問の方法、態様が『相手方の任意の協力を求める形』を超えれば、法律上の根拠規定がない以上、それは違法なものというべきである」(前掲・酒巻57頁)

要するに、行政法の「侵害留保」原則から物事を考えるべきであるとするのです。その結果、警察官が単に停車を求め、運転者に短時間の質問をすることは、それが相手方の任意の協力を求める形であれば、特別の法的根拠は不要ということになるのです。

おそらく、実務は行政活動の法的根拠の範囲について、「侵害留保説」(国民の権利自由を権力的に侵害する行政についてのみ法律の授権を要する、との考え方。参考・芝池義一『行政法総論講義[第4版]』(有斐閣・2001年)45頁)を採用していると思われます。そうなると、国民の法益(権利自由)の侵害がない、またはそれが軽微な場合の行政活動には、法的根拠が不要との帰結になると理解するのが自然でしょう。

以上を踏まえれば、最高裁判例の理解として、本件のような形態の自動車一斉検問については、特別の法的根拠を不要と解した、とするのが妥当でしょう。その意味で、酒巻教授の説明が、最高裁の立場を的確に示したものとと思われます。

それでは、決定か「警察法2条1項」に触れているのはどういう意味を持つのでしょうか。
この点についても、酒巻教授の説明を引用したいと思います。

「ここ(昭和55年決定)に説かれているのは、警察の責務(警察法2条1項)の範囲内でのみ許容される警察活動が比例原則に従わなければならないとの当然の事柄にすぎず、その前提として、この事案で問題となった一斉交通検問が、警察の責務である『交通の取締』目的の範囲内の活動であることを確認しているにとどまると読むべきである」(前掲・酒巻57頁)

※酒巻教授と同旨の説明として、長沼範良ほか『演習刑事訴訟法』(有斐閣・2005年)52頁以下〔佐藤隆之〕があります。
[PR]
by meronpanss | 2006-11-10 19:18
<< コメントに対する返信 平成19年度新司法試験・続報 >>