「訴因変更の要否」と抽象的防御説

訴因変更の要否の問題は、刑事訴訟法上、重要な論点である。
この問題が出てきたら、みなさんはどういう答案構成をするだろうか。
おそらく、具体的防御説を批判して、抽象的防御説を採用するのだろう。
みなさんお持ちの教科書、予備校本にも同様のことが書かれていると思われる。

ところが、判例の立場は一筋縄ではない。
この問題について、最近(と言っても5年前であるが)、極めて注目すべき判例が出ている点には注意すべきであろう。
学説が言うような抽象的防御説を採用していないのである。
訴因制度の趣旨にさかのぼった基準を導き出している。

その判例とは、
最決平成13年4月11日刑集55・3・127判時1748・175判タ1060・175LEX/DB28065112
である。以下、引用する。
「次に,実行行為者につき第1審判決が訴因変更手続を経ずに訴因と異なる認定をしたことに違法はないかについて検討する。訴因と認定事実とを対比すると,前記のとおり,犯行の態様と結果に実質的な差異がない上,共謀をした共犯者の範囲にも変わりはなく,そのうちのだれが実行行為者であるかという点が異なるのみである。そもそも,殺人罪の共同正犯の訴因としては,その実行行為者がだれであるかが明示されていないからといって,それだけで直ちに訴因の記載として罪となるべき事実の特定に欠けるものとはいえないと考えられるから,訴因において実行行為者が明示された場合にそれと異なる認定をするとしても,審判対象の画定という見地からは,訴因変更が必要となるとはいえないものと解される。とはいえ,実行行為者がだれであるかは,一般的に,被告人の防御にとって重要な事項であるから,当該訴因の成否について争いがある場合等においては,争点の明確化などのため,検察官において実行行為者を明示するのが望ましいということができ,検察官が訴因においてその実行行為者の明示をした以上,判決においてそれと実質的に異なる認定をするには,原則として,訴因変更手続を要するものと解するのが相当である。しかしながら,実行行為者の明示は,前記のとおり訴因の記載として不可欠な事項ではないから,少なくとも,被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし,被告人に不意打ちを与えるものではないと認められ,かつ,判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえない場合には,例外的に,訴因変更手続を経ることなく訴因と異なる実行行為者を認定することも違法ではないものと解すべきである」
※強調部分はGakによるもの。

この平成13年判例で、訴因変更の要否に関する規範は、決着がついたものと「私は」考えている。答案政策上は、具体的防御説批判→抽象的防御説ではなく、平成13年判例の規範を採用した方が良いのではないか、と思っている。
しかし、この判例には課題がある。すなわち、訴因の特定に不可欠な部分については、常に訴因変更が必要であるとなっているが、具体的事案に照らし合わせたとき、何が訴因の特定に不可欠な部分なのか、という点がわかりにくい。実務家(特に検察官、刑事裁判官)ならば分かるのだろうが、受験生にはわかりにくい部分である。答案政策上は、あてはめがしにくいかもしれない。

この判例についての評釈は実に少ない。その中で、大澤裕「訴因の機能と訴因変更の要否」法学教室256号28頁以下がおすすめである。
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by meronpanss | 2006-05-21 02:39
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